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大人になれば。

 

 代引きで注文したTシャツが届いた。またも黒の一着。着物に柄を乗せる技法、「蝋たたき染め」というのを使っているらしい。首元から脇腹あたりまで、グラデーションの様に白の粒子がくっ付いている。かなり格好良いと思い、春からずっと購入のタイミングを待ち続けていた。大学の頃と同様、東京に来てからも給料のほとんどは酒に消えたが、その一部をとっておいたのが幸いだった。嬉しい。


 僕はまだ子供だ。コンビニで買うお菓子は家に着くまでに全て食べきってしまうような男だ。映画を観ればたちまち影響されては、ヘインズのTシャツの袖に煙草の箱を装着する。「ソラニン」を見た直後には、即座にリサイクルショップへ走った。3000円の中古ギターを買って、中指を痛めた。それは4,5日で終わって、ギターには埃。赤い指はすぐに治った。

 そういう男だから、素直に順当に今回も、届いたTシャツを洗濯もせずにそのまま着て出かけた。髪には大雑把にワックスを付けて。日高屋のガラスに映った自分を見て、(Tシャツほんとかっこいいな)と思いながらニヤけ惹かれていたら、大学生みたいな人が乗った自転車に轢かれるところだった。ちょっとくだらないな。

 

 ドトールコーヒーで小休憩。頼むのはいつもと同じSサイズのアイスコーヒー。ハーフっぽい店員さんが可愛い。中年の店長らしき人は、地元のパチンコ屋の店員に似ている。喫煙席はおおかた満員で、ちっちゃいテーブルに滑り込んだ。山本耀司の真似をして吸っているハイライトの箱をそこにぶん投げて、彼が作ったY-3のショルダーバッグを向かいの席に置く。

 向こうの方で名刺整理にいそいそしているお兄さん。家賃50,000円の部屋を必死に推しているおじさんと、推されている女の子。隣の席に座っているおじさんはコーヒーの下に紙ナプキンを敷いていた。僕を挟むもう一方の隣に座るお姉さんも、同じく敷いていた。僕は丸テーブルをグラスの汗でべしゃべしゃに濡らしていた。大人と子供の境界線はここなのかもしれないと思った。

 

 名刺整理のお兄さんが急に席から立ち上がって、アディダスのリュックを背負った。(帰るんだなあ)と思いながら観察していると、グラスの中には4割くらいコーヒーが残っていた。席を直して、灰皿を手に取って、スタスタ歩く。コーヒーはここでも残ったまま。ガラスに反射する彼の姿を目で追うと、4割アイスコーヒーの残ったグラスはそのまま返却口に置かれた。程なくして彼の背中が見えなくなった。

 

 大人になるということ。おしっこを我慢しなくなったり、茄子の旨さに気づいたり、硬いヒゲが生えたり。革靴が欲しくなるのもそうだ。ドトールコーヒーにて、今日は、「コーヒーをちょっと残す」というのも増えた。僕のグラスの中には、薄い茶色をまとって溶けかけた氷だけ。大人って難しいね。