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オナラは人を幸せにするか。


 札幌からはるばる、恋人が僕に会いに来てくれた。
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 身長152cm?の彼女は、スカイツリーを前にアリンコみたいなサイズに見えた。キャップから一切はみ出ることの無い後ろ髪が、男の子みたいで格好良い。ドクターマーチンのバックパックにはたしか、女の子みたいなポーチが入っていた様な気がする。それでもなおやはり、野球部の補欠みたいな刈り上げ部分のおかげで男の子。顔は本当に愛らしくて最高なんだけど。

 2日のあいだ僕の部屋に泊まった彼女が、最後の夜にオナラをした。『ブッ』「は?」の迅速な流れに、今でも笑いがこみ上げる。僕はオナラとゲップが心の底から嫌いだ。女の子のオナラなんて、もってのほかだ。本当だ。でも笑ってしまった。

 なんとか「素敵な人」を保とうとする八方美人な性格の僕は、これまで付き合ってきた女の子の前でオナラをするなんてことは一切してこなかった。絶対に無理で。それぞれの部屋に遊びに行っても、タバコを吸う名目で外に出ては放屁を重ねてきた。格好付けた表現にしているけど、素直な表現にすれば、ずっと外で屁をしてきた。
 そんな僕だからか、今までの恋人たちはもれなく僕の前でオナラをしない人たちだった。二ヶ月くらいで終わった人も、一年と半年くらい付き合った女の子も、全員が僕の前で尻の穴を緩めることをしなかった。すごい表現だな、これ。何言ってんだ俺。

 今の彼女は最高だ。全部最高。容姿は僕のタイプにビタビタではないにせよ、思想やファッション観、これまでの成り立ちも全部最高。怠惰に遊び尽くしてきた僕が本当に心から好きになった女の子。
 その子が僕の部屋で一瞬気と尻の穴を許したのは、本当に驚くべきことだった。何してんの?と思った。「気と尻の穴を許す」って凄い。でも、本当に。すごくビックリしたんだ。そんなことする人じゃあないと思っていた。

 でも、そもそもこれは罪悪ではない。一瞬で(ああ、この人は僕に心を許しているのだ)と思ってしまった。この発想の転換の瞬間的爆発と破壊には自分でも結構驚いたが、これまで僕と仲良くしてくれた女の人たちが全員消えてしまった。数々の思い出が霞んで無くなってしまった。何なら、「本当に付き合って好きになるってこういう事なんだな」と思ったくらいだ。

 良いと思った。恥じらう彼女を見て、真に新しい性癖が出来そうになった。きっとこの人は僕に心を許してくれているんだろうと思った。途端にひたすら愛しくなってしまって、駄目だった。なんか、すげえ良いと思ったんだよなぁ。
 人を愛するという事が全然分からなくて、セックスすれば情が湧いてどうこう…みたいな思考しか持っていない猿の様な僕だったから、これにはほとほと驚く。ああやっと人間になれたんだ、と思った。これは大げさか。

 実家の父の部屋に転がっていた、一冊の漫画を思い出す。タイトルまでは思い出せない。盲腸の人が手術後にオナラをするシーンだった。「ほら!腸がつながった!オナラは人を幸せにするんだよ!」と言っていたと思う。オナラは人を幸せにするか。もしかしたら、するかもしれない。