「好きな食べ物は?」に対する返答について。

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 ばあちゃんから「カレイの煮付け」が届いた。箸を入れればたちまちほろほろとくずれる、甘辛い煮付け。僕はこれを食べるたび『ほっぺたが落ちる』という表現を見直す。その通りだと思う。言い得て妙だ。困った時の顔みたいに口角が下がる。目尻がそこと繋がっているかのように落ちていく。さながら恵比寿様みたいな顔になってしまう。本当にすげえ美味いんだ。


 これまで生きてきた中での『好きな食べ物は何?』という質問には、いつも違う返答をした。高校生だった頃はたしか「ペペロンチーノ」と何度か。パスタを食らう自分に酔っていたのだ。「米粉のパン」もたくさん言った。個性が出るかと思って。

 今思えば、粘土みたいな色をしたクロップドパンツに、紫のカモフラ柄が乗ったスニーカーを合わせていた僕はマキシマリズム台頭みたいだった。目立つことが1番の狙いとしてあり、ファッションも言動も全て「奇をてらう」一辺倒だった。

 浪人の頃と、大学の頃。これらについては全く覚えていない。「ハンバーグ」と言ったこともあったかと思えば、「里芋の煮っころがし」と言ったこともあると思う。全然覚えていない。浜田雅功さんと槇原敬之さんのチキンライスを聞いた直後は多分「チキンライス」と答えた。これらの例はいま大雑把に考えたものだけど、多分そんなもんだろ。知らないけど。

 今はと言えば、結局「今 "は"」と言えるほどでもなく、テキトー大雑把なんとなく無心無根拠で答えている。人なんてものは要は変わりゆかないものだ。僕は全部その場その場で返答するネガティヴな意味での八方美人みたいなやつだ。舌が何枚生えているんだか分からない。怪盗二十面相とかヤマタノオロチとかよりもずっとたくさんの顔を持っている。


 僕がしてきたカメレオンみたいな返答の中でも、これは外せないな、と思えるものがある。それが、今回ばあちゃんが北海道のド田舎から送ってくれた「カレイの煮付け」だ。もうこれに関しては、何枚食べさせてもらったか分からない。僕の身体の1割は煮付けで出来ていると言っても過分過度ではないと思う。まあ嘘だ。

 すごく美味しいんだ。隠し味とか火を入れるタイミングとかいう細かいことはわからないけど、とにかく美味しいんだ。大好き。ばあちゃんが作るカレイの煮付け。おはぎも美味しいよ。甘い卵焼きもしょっぱい魚も、全部美味しいんだよ。オシャレな感じなんて一切無い、彼女が作る料理はいつも最高だ。

僕の一番好きな食べ物は、フラフラ揺れる返答の中に芯としてある「ばあちゃんが作ったカレイの煮付け」です。一昨日の夕飯に食べたから、今はそう言ってるだけかもしれないけど。