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僕の青春の1ページ目。

特別お題「青春の一冊」 with P+D MAGAZINE
http://blog.hatena.ne.jp/-/campaign/pdmagazine

 普段から特に本を読まない僕には、「青春の一冊」なんていうもっともらしい本は無い。「~には感銘を受けた」、「~の言葉に影響された」といった、素敵な教養も特には無い。ヘミングウェイスタインベックサリンジャーも、シェイクスピアアラン・シリトーも、村上春樹安部公房も、とにかく知らない。この列挙ですら、ヤフー知恵袋と同居人に手助けを受けてやっと並べたものだ。それほど僕は本を読まないし、知らない。

 それでも、やっとのことで読みきれた一冊というのはある。最近は、良くしてくださる先輩方から『読む順番ってあると思うよ』と言われてしまったが、浅田次郎さんの本を読んでみた。「ま、いっか。」と題された、なんとなくテキトーに選んだ一冊。短編がずらずらと並んでいて、それぞれが「別に考えなくてもいいこと」みたいなラベリングが可能な事柄。本を全く読まない僕にとっては、また、細かいことをウジウジ考えてしまいがちな僕にとっては大変面白い一冊だった。

 

 話は変わって、「青春の一冊」へ。変わるとはいえ、別にばっちりとした着地点が定まっているような話でもないのだけど。こんな僕にも、一応は読みきった本はあった、という話。多分、きっと、これによって僕の青春時代はひん曲がってしまったんだろう。そう思えるのが、一冊だけある。たったの一冊。読みきれた本がそっくりそのまま「青春の一冊」になってしまった。

それが、これ。

日曜日よりの使者の詩(うた)―甲本ヒロト全詞集

日曜日よりの使者の詩(うた)―甲本ヒロト全詞集

 

 詩集だ。THE BLUE HEARTS甲本ヒロトが書いた歌たちの歌詞を集めた本。音楽もろくに聴かないような、サブカルチャーに全く興味が無い人間だった僕は、母親が運転していた黄色い軽自動車の中で初めて彼の歌を聴いた。『気が狂いそう』と始まるあの歌が耳に入ってきた瞬間に、なんと言えば表現できるのかわからないような、気持ち良さを感じた。ちょうどマスターベーションを覚えたばかりの中学生だった僕は、たしかそれに近いような快感みたいなものを感じたはずだ。直感しか頼るものが無い、音楽についての知識が皆無な僕が、「なんとなくかっこいい」という音楽に出会った瞬間だった。

 それからというもの、僕は彼が作る音楽にどっぷり浸かった。とにかく彼ばかりを追いかけた。習っていた剣道のおかげで、憧れた甲本ヒロトと全く同じの髪型。青いほどの坊主。タオルが引っかかるくらいの。伸びかければ伸びかけるで、「これはこれで」と自らに甲本ヒロトを重ね合わせた。ただひたすらに憧れた。

 

 そんな僕のあこがれ、甲本ヒロトの書いた歌詞がぎゅっとつめ込まれた詩集を、当時の僕が買わないはずが無い。夢中で読んだ。ばっさばさ読んだ。それはもう、手汗が噴き出てるんじゃないか、その汗でページが滲んじゃうんじゃないかと思うほど読みまくった。ずーっと読んだ。読んで読んで、読み終えてはまた読んで、ついには枕元に置くくらいにもなって、彼の言葉を毎日毎日目で追っては、何度も何度も頭の中で彼の歌声をループ再生した。

 好きな女の子に『優しすぎる』と言われフラれてしまった時には、『優しさだけじゃ人は愛せないから』と書かれたページを本当に穴が空くほど読んで、直後CDをセットし、部屋中に響くくらい大きな音で彼の音楽を流した。ちょっと恥ずかしいけど、本当の話だ。

 

 今年の3月に北海道から飛び出す形で東京にやってきた僕は、極端に荷物の少ない上京者だった。借り物のキャリーケースには、適当に選んだTシャツが何枚かと、ずっと穿き続けてほとんどグレーになってしまった元ブラックのスキニーパンツ。 格好付けて買った雑誌を何冊かと、恋人が餞別にくれたサッポロクラシックの350ml缶を一本。

 それと、もちろんそこには、ボロボロにかすれてしまった一冊の本も。日曜日よりの使者の詩」と書かれた真っ赤な一冊。端っこはくたびれて、ページの側面には何のシミだか分からないのが何点かある、きったない本。持って来ずにはいられなかった、僕の青春の一冊。唯一の僕のバイブル。その日は奇しくも大安の土曜日だった。日曜日にこのまま連れて行ってくれそうな、優しさいっぱいの一冊と一緒に、僕は無事上京した。いくつかの汗ジミらしいものと変な匂いを持った、こ汚い青春の一冊を携えて。