靴磨きをしてみました。

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 同居人の荷物の整理を手伝っていると、一つの引っ越し屋の段ボールの中から、安っぽい字体で「ツヤ出しスポンジ」と書かれた安っぽい靴磨きが出てきた。何かに目を奪われたり興味を持って行かれることで整理が進まなくなるというのは日常茶飯事的なもので、その日もそうだった。

 小走りで玄関に行って、ネイビーのくたびれた8ホールブーツを手に取り、靴紐をするすると抜き出して、全体をその安っぽいスポンジで擦ってみた。爪先から靴紐が終わる部分まで、くまなく撫でた。買った当初と同じ輝きを取り戻したそのブーツを見て、改めて惚れ直した。格好良いと思った。

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 紐を平行に挿し直す。わざとらしいほどに艶々になったブーツを見て、またもうっとりした。久々に実家に帰った時に、僕のジョージコックスのクリーパーシューズをテカテカに光らせた父の気持ちが分かったような気がする。元々、靴を磨くなんていうのはしなくても良いことだと思っていて、別にわざわざ綺麗にしなくとも「アジ」とか「風格」に甘えることは大分可能だ、というのが持論だった。10分間の愛撫によって、それは間違いだと思った。愛撫ではないか。


 8ホールのブーツを磨き終えた僕は結局クリーパーシューズにも手を伸ばし、またも同じように黒い革を撫でる。さらさらと伸びていく油みたいなものが革靴を輝かせて、どんどん光が強くなってきた。意味も無く出かけようと思った。

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 取って付けたような輝きが戻り、エナメルシューズのように艶々しい一足になった。パンクは往々にして汚い物をスタイルに取り入れたがるが、これはこれでわざとらしく、鏡面の様に光を反射する革靴が演技的に存在していて、これはこれでパンクのアティチュードを体現しているんじゃないか、と思った。

 ジョージコックスの分厚いソールは、元々は足音を消すために設計されたものだという話を聞いたことがある。売春宿をこそこそ歩くための靴だったという。それがこんなにピカピカしているときたもんだから、なかなか皮肉的で面白い。

 パンクには、「演技」や「皮肉」、「わざとらしさ」が含まれる。これは持論だ。セックスピストルズジョニー・ロットンが、ステージ上で最後に残した『騙された気分はどうだい?』という言葉。ここにパンクの全てが詰まっていると言っても過言ではないと思う。全部嘘。全部演技。わざと。で、最後は皮肉じみた言葉で終わり。これこそがパンクの真髄だと信じている。「アナーキー」とは、ただ何かを滅茶苦茶に破壊することだけじゃない。正当な破壊。論理的なぶち壊し。

 奇しくも僕が持っている革靴はドクターマーチンとジョージコックス。「奇しくも」とは書いたが、実際にはかなり好みを表している。僕はパンクが好きだ。面白いと思う。今までは、ここまでちゃんと音楽のジャンルについて考えたことが無かった。楽しい。

 靴磨きの話だった。これも結局、彼の荷物の整理と同じ様に、脱線に脱線を重ねてしまう僕の性格だ。こうして、無理矢理終わらせる。