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たけしの落書き入門 (とんぼの本)

たけしの落書き入門 (とんぼの本)


 これ、めちゃくちゃ面白い。ビートたけしさんが描かれた落書きがたくさん載っている本で、それぞれの解説のような言葉がずらりと並ぶ一冊。
 もちろん各絵はとても面白くて、どんな生き方をすればこんな発想を得られるのかと小さな畏怖のような感情を持ったりもした。それと同時に僕は、この本の中の「文章」にも彼の凄さを見た。そのうち2つの言葉をここに記そうと思う。新潮社の営業妨害にならない程度に。

最近、こりゃ駄目だってのが、じゃんじゃん分かるようになってきた。実際に絵を描いていると、いいわるいの判断も自分なりに出来ちゃうんだね。最初はただ描くだけでよかったんだけど、最近は欲が出てきて、ついついうまい絵を描こうとしたりして。そんな時は「便所の落書き」に戻らなきゃって思うけどね。
 この文を僕は、最近の自分に代入した。文章を書くようになり、どんどん書き連ねよう、自分の思いを文に乗せて発信しよう、と思うにつれて、ついつい「上手い表現を出しまくろう」という欲が出てきてしまう。彼が言った『便所の落書きに戻らなきゃ』までとは言わないが、一度原点に立ち返って自らを俯瞰するような、そんな気持ちも大切なのかもしれないと思った。恥ずかしいけれど、一番最初のブログのエントリを読み返そうと思った。

これをやきものでつくってくれないかと思って、知り合いの陶芸家に相談してみたりもした。いつかは自分でも、やきものをやってみたいね。ただ、いまのおいらだと、土をこねても、奇をてらって人とは違うへんな形ばっかりつくりそうで、それがいやなんだ。(中略)普通の形のものをストレートにつくってみて、それでもどっかに自分なりのものが出るっていうのがいいと思う。
 この文には、「ベーシック」と「個性」の原理を見た。昨今のファッションシーンには、ベーシックだとかスタンダードだとかが増えに増えた印象がある。少し前で言えば「ノームコア」なんかがそのど真ん中。普通の格好、何も無い格好をして、どんどん周りに馴染んでいく。人と同じは嫌だと影では言いながらも。
 どこかにこだわりを見え隠れする程度に忍ばせて、それを「個性」と呼ぶ。ベースを「普通」に定めた上で、そこに「こだわり」を混ぜるようにして「個性」を出していく。むしろ自然発生的に「こだわり」や「好きなもの」が「普通」や「ベーシック」に混ざった形を、「個性」と呼ぶのかもしれない。

 この本を読んで体感的に、(落書きにも信念や思想は含まれるのだ)と思った。何も考えずに取った行動なんてきっと一つも無い。おじさんが通り過ぎる時に歌っていた鼻歌も、彼が背負っているナップザックも。すべて「行動」と呼べるものにはもれなく、思想や信念が織り交ぜられているのだろうと思った。下ネタの絵ばかりだったけれど、とても良い本だったような気がする。