そこそこ楽しいよ。

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 東京の夕方はなかなかエモーショナルで、感情を大きく揺さぶるというわけではないが、琴線に優しく触れてくることが多い。町がセピアに彩られる午後4時から5時にかけては、悲しいんだか寂しいんだかよくわからない感覚になる。ホームシックではないと思う。

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 前髪がとても長い同居人が到着してからは、ベランダでタバコの煙を揺らすことが少し多くなった。風になびかれて、左側から僕の鼻のすぐそばを通り抜けかすめていくバニラの香り。それは妙になんだか懐かしくて、話すたわいも無い会話も昔を思い出させるほどに優しかった。

 『彼女とベランダで電話してる時、スピーカーにしてたでしょ。全部聞こえてたよ。』と言われて、恥ずかしかった。『俺と話してる方が楽しいでしょ、ってやばいね そんなこと言うんだ』と言われた。面白かったけど。やめてくれと思った。これからは部屋にこもって小声で電話をしようと思う。

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 彼は結構面白い奴だ。昼間からずっとだらっとして、気づけばのっそり起きてきてはファミコンのコントローラをカチカチ言わせている。時折、独り言とも僕に対する言葉とも取れない『もうわかんない』とか、『攻略ページとかは見たくないよなー』とかを言ったりもする。服装は洒落ていて、この写真のシャツはトッドキリアン。ネペンテスでも取り扱いがあったブランドのものだが、ブックオフで800円で購入したというから流石。

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 長い前髪をベランダに吹く風に乱しながら、自転車を配置した彼。『悪いな〜』と言いながらも嬉しそうだ。

 2ヶ月後には僕にも自転車が手に入る。管理人のおじさんが気を利かせて僕にプレゼントしてくれるようで。上京してきた初日に顔を合わせた管理人さんは、『若い人は全然いないから!ジジババばっかり!』と言いながら、23歳そこらの僕に対してきっと、孫を扱うような気分で接してくださっているのだろう。何でもくれるもんだから、部屋にはカレンダーが2つもある。近所の地図に関しては3,4枚あるんじゃないかというほどだ。嬉しいけど、嬉しい、けど。


 東京は思ったよりも都会すぎることも無く、たまに僕に懐かしみすら与えてくれる。それを程よく楽しめているうちはきっと、ホームシックになるなんてことはないだろう。上京前、いろんなアーティストが歌う「東京」というタイトルの曲を聴いた。みんなネガティヴなことばかりを歌っていた。まだ7日しか経っていない僕の東京生活だが、「そんなことねえわ」とキッパリ言えそうだ。恋人も言っていた通りにきっと上手くいくと思う。上手くいって欲しい。