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ありがとうございます。


 東京に到着した。搭乗口で荷物の検査をしている間、父はおちゃらけて僕にヘラヘラした。弟は母の車椅子を左手で掴みながらも、右手にスマートフォンを持ちながらその手をフラフラさせた。母はと言えば、遠くからでもわかるくらいにキラキラと目に涙を浮かべ、くちゃくちゃのわざとらしい笑顔も同時に浮かべながら僕の方を見ていた。ベタなドラマみたいだった。金属探知の銀のゲートをくぐった後にまた振り返る自分が、野暮でだらしなくてしょうがなかった。でも、意外とそんな自分も嫌いではなかった。

 綺麗なお別れをできた後に、またしても彼女の家に行ってしまった僕はきっと、一言で野暮な人間なんだと思う。格好付けてお花までプレゼントしたのに。玄関先での『行ってらっしゃい』の声が震えていることに思いを馳せながら、僕も同じように車内でシクシク泣いたのに。僕はやり過ぎ感に気付けないような、無粋な人間だ。でも、二度目のお別れにもやはり彼女は喜んでいた。本当に良かった。

 思えばたくさんの人々にお世話になった4年間だった。度重なる金欠にあえぐ僕に、お金を貸してくれたりラーメンをご馳走してくれたりした友達もあった。卒論提出直前にパソコンのモニターが壊れた時には、学校から歩いて5分のところに住んでいる親友は僕にマックブックを貸してくれた。データの「執筆者」のところには彼の名前が表示された。それを笑う彼の笑顔は本当に優しかった。

 『お前は前借りばっかりだな!』といつもケラケラ笑うバイト先の店長は、東京に向けて出発する僕にお弁当を用意してくれた。

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 僕の好物ばかりが詰め込まれた、茶色のお弁当。『向こうに行ったら、健康には気をつけろよ』とLINEでメッセージをくれたにもかかわらず、野菜なんてトマトしか無いじゃないか。そんな不器用で愛に溢れた店長が大好きだった。面倒臭いこともたくさん言われたし、口が悪くて下ネタもドロドロの真っ黒だったんだけど、やっぱりなんだかんだ大好きだ。そんな彼が作ってくれたこのお弁当を食べながら、どんどん溢れてきそうになる涙を堪え、空港へと向かう車内には咀嚼音が響いた。「優しいなあ」と何度も口にした。


 僕の周りにはこんな人ばかりが居て、改めて僕は幸せだったのだと思う。あるのはありがたみだけだ。ああしてくれてありがとう、こうしてくれてありがとう、あの時、この時、あんな場所で、こんな場所で、と。全部ありがとう続きの人生だった。まだ終わるわけじゃないけど。むしろここがスタート地点であって、僕の人生だ。 
 与えてもらった数々の優しさを胸に、これからをありがたく過ごして行こうと思います。皆さんありがとうございました。これからも怠惰な僕だとは思いますが、どうぞ仲良くしてやってください。