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寝れないよ!


 生まれて初めて、眠れない夜を過ごしている。つい3日前には23歳になったばかりだが、23×365日分の1の確率にやっと今苦しめられる。23×368か。いや、間違えた。23×365+3だ。そんなことはどうでもいい。眠れない。彼女に対して強がりがちに言った「これからは少しだけ会うのを控えようと思う」が原因ではないはずだ。今住んでいる場所を離れるのが一心に悲しくて、めそめそしそうな気分を抱きながらベッドに横たわっていたのもきっと関係無い。友達が言った『日常が無くなるのがすごく嫌だな』という言葉もきっと、この強すぎる不眠には無関係だ。ただ眠れなかった。

 目を瞑ろうにも瞼が軽くて、すぐに暗順応。40分前に消したはずの電気が、今は昼過ぎくらいの鮮やかさで目に飛び込んでくる。かと思えばiPhoneの画面は、さっき最大限暗くしたはずなのにいつまでもTwitterのタイムラインをこれでもかと言わんばかりに照らしたまま。目に入るすべての情報がその明るさを保ったままで、僕から眠気を奪う形で輝いた。うるせえと思った。

 困り果てたのち、財布と携帯を持って外に飛び出した。外は案外寒くもなくて、ガタガタとこっぴどくうるさい音を立てながら排雪するどでかい車だけが道路の真ん中で威張っていた。寝起きの腰の痛みを猫背で応急しながら、近所のコンビニまで歩いて疲れようと思った。
 
 コンビニまでの道はいつもよりもずっと短かった。テキトーなファッション誌を手に取り立ち読みし、後ろで陳列の品の多さを嘆くバイト2人の会話に耳を立てた。『めっちゃありがとうございます』の語感に笑いそうになりながら、トイレへ逃げ込んで一人でクスクス笑った。

 アルコールに任せて眠ろうと思い、「ストロング」の文字を頼りにチューハイを買った。8%のアルコール度数は眠気を無理やり引きずり出すには不足だった。こんなことなら日本酒のワンカップでも買って、コンビニの前で一気飲みして帰れば良かったと思った。ウォッカの味が脳の裏側に染みて心地が悪い。酔っ払ったとは言えないが、まあ仕方ない。

 寝れない。寝れないぞ。どうしても寝れない。さっきの安酒は全く効果が無かった。隣には軽いイビキを規則的に立てる女の子が一人。スマートフォンの明るさのせいで目覚めてさせてはいけないと思いながらも中毒的にTwitterを確認する。英語のツイートがどこまでも続いていて、日本に在住する人々はきっと明日の、いや今日の仕事や用事を目指しているのだと思った。時差が余計なことを。こんなことならTwitterなんて見なきゃよかった。ツイッターなんて。

 接着剤とまでは言わないが、セロハンテープくらいの弱さの粘着性でもって僕の瞼と下まつげの辺りを留めて欲しい。もしくは羊を何匹も数えられる集中力が欲しい。本当に眠れない。困ったもんだ。寝れない!