僕のくだらなくてしょうもない生活。


 とにかく細かいところが気になる。祖母が僕に1万円札をくれるときの、下がった目尻とそこ以外のシワ、同じく1万円札に入ったシワが僕をエモーショナルな気分にさせる。『大事に使いなさいよ』と言って笑う彼女は毎度素敵だ。
 彼女の笑ったときの歯茎が美しい。欠陥や欠点だと自身が思っている部分なんて、大抵は個性やらその人らしさみたいな言葉で括られて良いものだ。歯茎が出るからって何だと言うんだ。そんなもの気にしなくていい。むしろ強みだとすら思う。僕のエラは強気に張っているけれど、それすら自分で美しいと思っているし、濃いヒゲも別にウィークポイントじゃないと思う。むしろ僕らしくていいじゃないか。

 冬の厳しい寒さが一瞬だけ隠れた今日、朝が珍しく暖かくて、自販機にて青いボタンを押した。冷たいブラックコーヒー。駅へと向かう途中に、彼女が僕に対して『こういうのがずっと続けばいいのにね』と言った。目立たないように微笑んで、「そうだね」と言った。惚気心にのぼせたツイッターの恋愛botみたいだけど、僕も彼女とのこんな生活がこのままずっと続けばいいと思った。直後に冷たいコーヒーの缶に吸い殻を入れて、遅刻しそうな時間を気にしながらパタパタと歩を早めた。
 コンビニの大きな窓から、エロ本を立ち読みしているおじいさんが見える。「鼻の下を伸ばす」という表現をここまで明確に表した人は見たことが無い、と思えるほどだった。青い剃りたての口ひげがここぞとばかりに縦に伸びて、見るからに幸せそうだった。なんかいいなと思った。こんなのもきっと幸せだと呼べるはずだ。
 灰皿を挟んで隣に立った、鼻の低いおじさんがポケットからジッポを取り出して、長いタバコに火を点ける。向こうの景色の一部が陽炎みたいに揺らめいて、彼の口元を通して駅の壁がCGみたいにフラフラした。バニラの香りが僕の鼻を何度も通り抜ける。良い匂いだ。たまらずファミリーマートでバニララテを探した。無い。仕方なくCafe & Meal MUJIのマサラチャイを買った。スパイスとジンジャーの存在感が強くて、もう昼はとっくに過ぎているけれど、バッチリ起こされた。もう昼だ。
 
 日々の細かい出来事や部分を見つめては、じっとそれについて考える。別に何を生産するでもなく、大きなお金になるわけでもない。言ってしまえばどうでも良くて、気にする価値も無いような、そんなものばかり。日々はそういうもので溢れている。どうでもいい、しょうもない、くだらないものばかりだ。揺れるジッポの火がどうしたというのだ。エロ本を読んでいるおっさんなんて自分とは関係無いよ。1万円札は1万円札で、ピン札だろうがシワシワだろうがどうだっていい。彼女が気にする歯茎?そんなもん知らねえ。
 そういうくだらなくてちっぽけな物たちに目を向け、自分のフィルターを通して世界を見つめる。「感性」みたいなものに身を委ね、いちいちそこらに反応していく。こうして僕の生活は成り立っている。くだらなくてしょうもないけど、これが結構面白いのだ。他の誰かが拾わずに放置し置いて行ったような物たちが、僕には尊い物に見えて仕方が無い。
 そういう小さな点と点を無理矢理繋げて、やがてもっともらしい線になったら、それが僕の生活そのものになる。僕の人生はそういうくだらないもので、細くてグネグネした弱々しいものだ。楽しくてしょうがない。どうしようもない。人生はいつも最高だ。