寒いよ。とにかく。寒い。

 

 寝起きの目を擦りながら、今日は一日何を着ようかと低血圧の頭を一生懸命回す。ベッドの横に雑に置いておいたコーラを飲んだらちょっとは頭も冴えるかと思ったら、カーペットにベットリこぼしてバカを見た。こんなことになるなら「コカコーラライム」なんていう新商品に食いつかなきゃ良かった。夜にはベッタベタになってしまうだろうから、タオルに水を染み込ませてそれをゴシゴシ拭いた。イライラした。「これで頭に血が上ってなんとか思考能力も増してくれるだろう!」なんてポジティブな自分では居られなかった。バカか。寝起きの機嫌の悪さに油を差しただけだ。

 ギルダンの安いTシャツからどことなく、お香の良い匂いがする。洗濯物も溜まったままで、暮らしの不安定ぶりに少し煽られた。いい加減部屋を片付けないとなぁと思いながら、衣装ケースにそこそこ綺麗に畳まれたグレーの無地のTシャツを手にとった。パンツは黒でいいや。靴下も黒でいい。靴も黒のクリーパー。モノトーンの服を好むようになってからは、「どこかに明るいトーンを混ぜればなんとかなる」という怠惰が第一優先になってしまった。

 夏ならこのまま外に出られたけれど、昨日の天気予報では『明日からは極寒です』みたいなことを言っていたっけ。玄関の目の前にあるトイレに入って、ちょっとだけ窓を開けてみる。思わず「はぁ?」と声が出て、途端に縮こまった。変な意味ではない。縮こまって、腕をしばらくさすった。寒い。困った。

 もう一度衣装ケースの前に戻り、ベッドの中にまで戻ってしまおうかとも考えたが、それはやめた。三段目の引き出しを開けて、グレーのスウェットパーカを見た。着膨れするのが大嫌いな僕は、頭の中に「オシャレは我慢」と「札幌 7℃」の文字を並列して、寝ぐせのついた頭をぐしゃぐしゃと掻き、結局前者のせいでパーカを戻した。今思えば着ていた方が良かったのかもしれない。

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 結局、Tシャツの上にライダースジャケットを重ねた。パーカを挟めるのも良かったかもしれないが、ライダースの中に厚めの生地の服を着るのはあまり好みじゃない。アメリカンなシルエットの、袖幅や身幅が太いものであれば話は別だが。アームホールが細く、全体的にタイトな印象と着心地のUKライダースに関しては、中にTシャツ1枚でさらっと着たい。でも、やっぱり寒い。

 雨が降っていた。そんなにざんざん降っていた訳ではなく、細かい粒子みたいなのが空中を斜めに落ちながら舞っているような。誰かが言っていた『雨が降るってことはあったかいってことだよ 寒かったら雪になるからね』という言葉は嘘だと思う。それはそれとして合っているのかもしれないけれど、雨の日だって等しく寒いよ。さらさら降っているからといって、別に程度がどうこうということもなく。寒い。

 ポケットに手をぶっきらぼうに突っ込む。寒さのせいで背中がおばあちゃんのそれみたいに曲がる。クリーパーソールの厚さと道路の縁石が相まってつまづきそうになって、一人なのに恥ずかしい。安いTシャツの裾が丸く反り返って、それを確認するたびポケットから両手を引っこ抜いて綺麗に直す。手が外気に触れて、また一層寒く感じる。降っているのが雨ではあれ、やっぱりもう冬なのだと思った。

 コンビニで買った苦いだけの安いコーヒーを飲んで、吐く息がより濃く白くなったのを見て悲しくなった。ライダースジャケットのジャラジャラしたジップが、歩を進めるたびにうるさく音を立てる。夜の外には、自分以外の人は全く一人も歩いていなかった。ジップの音だけがサイクリングロードに響いて、(もしかしたら今、世界に自分一人だけなのかもしれない)と、どっかで見た二番煎じのキザな妄想をしてみたりもした。冬は寂しい季節だ。選ぶ言葉もネガティブなものが増える。良くないなぁとは思うものの、夏のあんなに元気だった自分との対比も面白いなぁと思う。

 これらの文章を交互に何度も読み返すと、はたして書き手は本当に同一人物なのかと疑う。あの時はあの時だし、仕方ないんだけど。まあ、きっと冬も良いんだ。終わり。