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冬だねえ。寒いねえ。

 寒くなった。暑さのせいで出来てしまうTシャツの背中の汗ジミばかりを気にしていた、あの日はもう遠くの彼方。instagramを後付けのコンセプト、備忘録として使い、「10週間前」の文字に震えたのはきっと寒さのせいではないだろう。雪駄を履いていることを自慢気にしていたあの投稿を見て、(今やブーツを履いてしまうくらいになったなぁ)とノスタルジックな気分になった。

https://instagram.com/p/6OnNuQzKPJ/

 

 季節は巡り、10週間、70日も経てばもう全く違う景色が目の前に広がってしまう。友達が言った『雪虫やばいね』の声や、つまらない古着屋の帰りに目の前でしんしんと降っていたいくつもの塊の雹が伝えたのは、紛れも無く「冬の到来」である。薄着でたらたらと過ごしていたあの時の自分が信じられない。クロップドやショート丈のパンツをほとんど衣装ケースにしまいこんで、それでも穿きたい12SSの半端な丈のパンツだけは腰まで落として穿いている。クロップドのすき間から見えてしまう薄白い素肌と、そこに乗っている豊かなスネ毛を「スタイルに与える抜け感・軽さ」と言い訳づけて。クシャミまでをも「オシャレは我慢だ」としてかこつけて。

 

 タクシーに乗れば、運転手が『気温表示の一文字が最近は怖いんですよね』とオシャレな表現を以って寒さを表した。僕は全く天気予報にも翌日の気温にも興味が無く、そうなればそうだという気持ちでしかいない訳で、彼の綺麗な言葉選びと、そこから予測できるなんとなく丁寧らしい暮らしぶりを羨ましく思った。

 一緒にコンビニに出かけた弟がサンダルを履いて、震える寒さのせいで会話に集中できず『うん』ばかり口にする。僕の話がつまらなかった訳ではないと思う。今日はバイトが暇だったとか、ぴったり20歳の頃が懐かしいだとか。「僕の話がつまらなかった訳ではないと思う」とは書いたものの、今こうして文字におこしてみれば、もしかしたら飽き飽きしつつ『うん』と何度も言っていたのかもしれないな。僕は寒かったけどな。コートを着ていても。

 夏に見た、ベロをだらしなく露わにして渋々連れられていた犬。今や鼻から出る息はほんのり白で、あの日のベロはどこにも見当たらない。彼の隣でリードを引いたおじいさんが鼻をすする。ナイロンのジャケットは遠くからでも色あせていて、すれ違う時にはツイードのスラックスが毛羽立っているのが見えた。きっと久々におろしたんだろう。タバコに火を点けてぶるっと震えた彼の足元で、柴犬が周りをキョロキョロしている。お前は冬も楽しいのか。最高だな、お前。犬生を一生懸命楽しめているんだな。犬生。僕はこの季節のせいで人生をまるっきり楽しめてないよ。羨ましいよ。

 

 日々の景色にどんどん冬が入り込んでくる。無理矢理に夏だとしてこじつけた秋の青い紫陽花も、今や下を向いてめっきり茶色になった。ヒマワリだってそうだ。

https://instagram.com/p/77CU-NzKFx/

 あんなに元気に太陽を向いていたヒマワリも、何も無いサイクリングロードの地面を眺めるようになった。コートを手放せなくなった。いくらポジティブな僕でも、この季節の始まりにはこうして生気を奪われたような顔をして、厚手のシャツに袖を通すのだ。コートを肩に掛けて、熱いコーヒーに伊達メガネを曇らせるのだ。ああ、冬だ。寒い寒い。寂しいなぁ。ブログで「寒い」しか言ってないなぁ。