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追い越したとは思ったが。

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 お父さんにジョージコックスを磨いてもらった日の写真を眺めている時に、(ああ、いつの間にかお父さんよりも大きいサイズの靴を履くようになったんだな)と思った。時間が流れるのは本当に早い。結構前に好きだった女の子は最近違う男の子と付き合ってしまったし、毎度言っているように、もう半袖のTシャツ一枚で外をふらつける季節も終わってしまった。

 そういうのの繰り返しの結果、僕の足は彼のよりもずっと大きくなった。実家に帰れば『お前、その服格好良いな』と父は僕の服を羨ましそうに見て、毎度のごとく『小さくて着なくなったらくれよ』と言うようになった。度々の飲酒と時間の経過のせいでもう成長は止まっただろうに。ただ、そうせがまれ実際にあげてしまったこともある。

 家族で親戚の家に行って、親戚から『もう一番ちっちゃくなっちゃったね~』と言われて少し恥ずかしそうにするお父さんの顔を見ることも増えた。背中はまだピンと張っているが、その時だけ急に猫背をしてみたり、かえって背伸びをして僕の頭をグイと押したりもする彼の顔は、恥ずかしそうでもあり、なんとなくどこか誇らしげでもある。

 

 実家に帰った時には、昔父が使っていた一人部屋を借りて寝る。彼の元の部屋には、釣り関連のよくわからない本や、恐竜のヘンテコな模型みたいなのがたくさんあった。彼は趣味が多い人間だ。僕も、彼のようにアクティブに何でも色々と手を出せる人になれたら良かった。今やスケートボードとブログの更新しか趣味が無い人になってしまった。まあ、全部面白いからいいんだけど。

 部屋の半分を占めるクローゼットに目を移す。彼らに聞こえないようにそれを抑えながら開けて、丁寧にかけられた彼のスーツや上着を見てみた。きっとあまり手入れはされていなく、シルエットも昔風な肩の張った物が多い。今ではきっと着ないだろうなぁという物がたくさんだったが、そのうち一つ格好良いジャケットに手を伸ばした。胸のあたりに刺繍がなされた、襟付きのジャケット。ジップはシルバーで、内側にはペイズリー柄が広がっている。(これならいいな)と思いながら、袖を通してみた。

 持ち前の長い腕のせいで、袖が七分丈みたいになった。胴はそれほど長くはないから、着丈は別に問題無い。肩は強めに締め付けて、腕が上がらなかった。思っていた通り、やはりサイズが小さい。小さいジャケットを着た自分を鏡越しに見ながら、どうしてあの両親から僕みたいな身長の子供が生まれたのかと思った時に、彼の『お前は拾ってきた子供なんだよ~』というバカみたいな冗談を思い出してニヤけた。

 クローゼットを静かに閉めて、興味の無い恐竜の模型を目で追って、ベッドに入る。これもやはり小さい。枕を側面に立てかけなければ、全身をベッドに入れ込むことはできない。かと言ってそうもすればきっと、次の日の朝には首がカチカチに固まって、横も向けない状態になりかねないだろう。僕は諦めてベッドから降りて、床に寝転がり、体の上に毛布みたいなのを掛けて寝ることにした。蓄光の恐竜がぼんやり光っていた。キレイだなと思いながらウトウトしていると、気づけば朝になった。案の定、腰がバキバキだ。次に来る時には布団の一枚でも持ってきてやろうかと思った。

 

 僕が成長したのはきっとお母さんの美味しいご飯のおかげで、頭がヘンテコな形に伸びたのはお父さんのゲンコツのおかげだ。手が伸びた理由は知らない。ヒゲが伸びるのはお父さんの強いDNAのおかげか。 「青は藍より出でて藍より青し」という言葉があるが、3日ほったらかしたアゴの周りが青いのは多分彼のせいだ。

 いつの間にか彼らよりも身長は伸び、視線は見下ろすほどになってしまったが、彼らから見ればきっとまだまだ僕は青二才のままなんだろうと思う。愛より出でて青二才。ちょっとキザで上手いことを言ったつもりでいるが、きっと彼らは口を揃えて『バカじゃないの』と言うと思う。まだまだ僕はおこちゃまだ。近いうちまた、実家に帰ろうと思う。