お父さんを自慢させてください。

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 小さいところではあれ、こういうのにいちいち感動してしまう。実家近くのセブンイレブンが行っている移動販売、「セブンあんしんお届け便」用の車のナンバーが「711」で。くだらないんだけど、気づいた時にはお得な気分になれる。誰かに教えてふたりでニヤニヤしたくなる。『くだらねえよ』と言われながらも、『やっぱお前はずっと変わらねえな』と続けられては互いにiPhoneを覗きこんで口角を上げる。尊い貴重な時間。ずっと大切にしたいと思った。

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 実家に帰ってガレージの中を見れば、父の趣味が濃縮され切った姿に心を打たれる。壁には釣り竿が掛けられ、黄色と黒のバイクとその部品が固め置かれている。一見乱雑に見えるが、実はしっかりと整然と並べられていて。バイカージャケットとバイクの色合いは揃えられていて、彼のセンスはやはり素晴らしいと思った。彼らしさの塊だった。『あったかい日にはこれを着るんだよ』と自慢気に話す彼の目尻は傾いて、僕のそれをも同時に傾けた。この人は格好良いなぁと心の底から思った。僕のお父さんはセンスが良い。僕なんかでは到底追いつけない。彼のセンスにはいつまでも届かないと思ってしまう。

 

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 その彼が玄関にずっと座り込んでいて、どうしたものかと思い玄関のドアを開けてみれば、僕のジョージコックスをピカピカに擦り磨き上げている途中であった。『やっぱり革靴はキレイじゃねえとな』と言いながら、これまでずっと手入れすること無く履いていた僕の淀んだラバーソールを、ヘンテコな匂いのする薬みたいなのでシュッシュと撫でた。『ほら、鏡みたいだろ』と言って僕に見せてきたその靴は、そこまでピッカピカではなかったものの、今までとは全く別の物のようにツヤツヤしていた。「ジョージコックスとドクターマーチンは汚くて良いものだ」という頑なな持論は、彼によって粉砕されてしまった。「やっぱ綺麗な方がかっこいいな」と口にしてしまうほど。

 彼にドクターマーチン3ホールをプレゼントしてから、たしか2年ほどになると思う。会社用に買ったそれを、しばらく経った今でも現役で使用しているらしい。それでこそプレゼントのしがいがある。僕のジョージコックスを磨き終わった後に、彼はその3ホールを手にし、少しの薬みたいなのを手ぬぐいに付け、その革靴の上をひょいと滑らせた。その間たったの30秒くらい。それから彼は言った。『俺のはいつも磨いてるから、ちょっと磨いただけでこんなにキレイになるんだよ』と。僕は彼のいつもの自慢話が好きだ。「のぼせた顔」という表現がピッタリ合う、あの表情。僕が人の話を聴くのが好きになったのは、きっと彼のせいだと思う。

 

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 週末は彼が料理担当。彼の料理は格別だ。何も特別な食材を使うわけではない。誰も知らないような調理方法で、見たことの無い料理を作り上げるわけでもない。市販のパスタソース、ナポリタンを麺に絡ませるだけ。ケチャップをフライパンの上で踊らせ、そこに鶏ガラスープを投入し…みたいな、そんな手間は一切無い。「鶏ガラスープを投入し」はテキトーに言ったけど。

 ここにもやはり、ただ2つだけ、彼のセンスが光っていた。それは、写真を見れば分かるのだが、とろけるチーズと目玉焼きを上に乗せるという、たったそれだけである。「黄身を混ぜればまろやかになり、そこにチーズの風味が…」なんていう面倒臭い説明は要らない。ただ、旨い。ひたすらに旨かった。茹でて、混ぜて、乗っける。たったこれだけの男臭い料理方法だが、なぜか旨いと感じてしまう。instagramでも言ったのだが、「男子厨房に入らず」なんていう言葉はデタラメだと思う。お父さんの料理、旨いもん。

 

 彼のセンスをビシビシ感じた後、毎度の通りだらっと車のエンジンをかけ、札幌にある自分のアパートに帰ろうと思ったところに、ガレージから『また帰って来いよ』の一声。「ああ、またすぐに帰って来るよ」の返事はいつもと同じだ。今までと何一つ変わらない彼との会話。ここまでたくさんのセンスを僕に見せつけながらも、帰り際は普遍的な一言。

 だが、俺は知ってるのだ。俺が帰った後にお母さんに『また早く帰って来ないかなぁ』と毎度こぼしているのを。(どうせ次もすぐに帰って来るんだろうな)と心内で思いながらも、ちょっと不安に思いながら、僕の方をあまり見ずにわざわざさっぱりしているのだろう。息子が帰ってしまうこのタイミングでイジるか、という時機でバイクをイジり始めるのも、きっとそういうことなのだろう。知らないけど。

 僕はヤボなところがあるから、家の前を車で走る時に「プッ!プッ!プッ!」と3回くらいクラクションを押す。彼はまだバイクを撫でながらタバコを咥えたままだ。その姿を横目で確認し、近所のコンビニエンスストアを通り過ぎた時、(また近いうちに帰ろうかな)と思いながら苦いコーヒーを気持ち多めに吸った。

 

 多分この締めを彼が読んだら、『格好付けんなよアホ』と言うと思う。これを最後に書く僕はやっぱりヤボだ。