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洗濯のための1000円と1時間10分、入浴のための440円といくらかの時間。

https://instagram.com/p/6ecsVATKDi/

 溜まってきた洗濯物を雑に車に放り投げて、近所のコインランドリーに向かった。せっかく家には洗濯機があるのに、怠惰のせいでわざわざ1時間10分と1000円をかけてTシャツたちを綺麗にする。なんて非効率で無駄な時間とお金なんだ。まあ、いいんだけど。

 「ガラガラガラー」と音を立てて回る洗濯機と、その中で楽しそうにはしゃいでいるTシャツを観察していたら、なんだか眠くなってきて20分ほど寝てしまった。ハッとして目を覚ますと、タクシーのエンジンをかけっぱなしにして美味しそうにタバコを吸っている運転手のおじさんと目が合って、気恥ずかしくなった。全く見たことも話したこともないのに、互いに浅めの会釈をした。恥ずかしかったなぁ。良い人そうで良かった。

 

 無心で洗濯物を1時間も眺めているのはあまりに暇すぎたから、近くの銭湯に行って汗を流した。真昼の銭湯は高齢の方々によって占拠されていて、僕みたいな若造がぬけぬけと入り込んで良いような場所ではないと思った。脱衣広場みたいな所でちょっと居心地が悪かったから、隣で一心に服を剥がしていたおじいさんに声をかけ、さっき貰った1個だけスタンプが押されたカードをあげようと試みた。

「すみません、この銭湯って結構よく来ます?

『ほとんど毎日来ますよ。』

「あ、ほんとですか。僕はあまり来ないので、これ、使ってください。」

『あら、ありがとうございます。』

 思いのほか好印象だったようだ。Tシャツだけを脱いで、黒いパンツにバケットハットを頭に乗せた格好で、さながら不審者のような無精髭を伸ばした青年が急に声をかけるものだから、きっと気味が悪かったことだろう。喜んでもらえて良かった。僕の方が早く服を脱ぎ終えて、情けない顔で会釈をすると、風呂のドアの前まで『ありがとうございます!』と見送られた。22歳になってから一番恥ずかしかった。丸裸で感謝されることなんか今まで一度も無かったはずだ。あったか?多分無いな。裸でお見送りをしてもらうなんて、絶対に無かった。

 言ってしまえば割とあの銭湯に行くことは多いけれど、別に熱心にスタンプを集めている訳でもないし、僕はスタンプを貰いに行った訳でもないし、それがきっかけで人に喜んでもらえるなら結構良いことをしたんじゃないかと思った。10個集まれば1回の入浴が無料になるみたいだ。それを知ったのもチラッと見えたポスターからで、それに惹かれまくった訳でもない。スタンプカードをあげることで、そこから何が起きるでもなく、何か良いことが降りかかってくるでもない。見返りを求めるには行動が小さすぎる。ただ、やっぱり人の喜ぶ顔を見るのは楽しいし嬉しい。見返りはそれくらいでちょうど良いのかもしれない。

 

 風呂から上がると、携帯に不在着信が残っていた。ロボットボイスで『洗濯物ガ アト5分デ仕上ガリマス』と。電話がかかってきていたのは10分前。僕は急いで服を着て、雪駄のカカトをずさずさ地面に擦りながら車へ向かった。車内に置いておいたコーラが体感人肌までいかないくらいにぬるくなっていて気持ち悪い。飲みにくさを我慢しながら飲み干して、急ぎ気味に車を走らせる。

 コインランドリー内では、女の人が2人仲良く話しながら洗濯機の「47分」の文字を前に楽しげにしていた。僕の洗濯物は、はしゃぎすぎて疲れて寝ている子どもみたいにだんまりしていた。それを拾い上げて、寝る子をちゃんと布団に入れてあげる親の気持ちで丁寧に畳んであげた。本当はそんなことは一切思っていないけれど。こんな服もあったな、と思いながらニコニコしそうな口角と目尻を制止しつつ四角に折っただけ。

 良い日だった。コインランドリーに行った日の話。