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夏にしがみつく。

 

 RISING SUN ROCK FESTIVALが終わり、札幌大通公園ビアガーデンも幕を閉じ、スーパーやコンビニには「秋味」のビールが並ぶようになってきた今日、道民にとっての夏が終わりかけている。思えば暗くなるのも早くなり、外はあのうだるような暑さを無くして、どこか涼しさすらをも感じるほどになった。北海道の夏は短い。セミの一生は7日間だという話をよく聞くが、北海道の夏はたったの一ヶ月程度、4週間ほどで終わってしまうのではないかと思う。それだけ北海道にとっての夏は短い。すぐに秋が来てしまう。

 僕はひねくれたところがあるから、それに反抗するようにして冷やし中華を食べた。

https://instagram.com/p/6eJbTHzKLt/

 冷やし中華を食べた時点で夏は確定する。古いラーメン屋さんの前に掲げられた旗が、「冷やし中華はじめました」の文字をグネグネに曲げてはためいている。ひたすら夏だ。夏でしかない。

 若干の夏バテで何も喉を通したくない気分でも、さっぱりとした酸味のしょうゆダレが掛かったこの料理を前にすれば最後、ズルズル鳴って気づけば皿は空っぽ。キュウリのシャキシャキした食感も、細切り卵の優しい柔らかな歯ざわりも、紅しょうがのバキバキの色合いも細切りチャーシューの何とも言えないボソボソ感も冷やされ締まった麺の歯ごたえも全部。全部良い。「ボソボソ感」すらネガティブではない。全部美味しい。何杯でも食べられる気がする。

 言い訳がましく夏の終わりに抗って、ずっと夏にしがみつく。去年はベナッシサンダルをいつまでも履き続けた。近所のコーヒースタンドのお兄さんにちょっとだけ笑われても、鼻水を危なく垂らしそうになりながらアイスアメリカーノを吸った。もちろん袖は短いままで。大学の同級生はいつまでも半袖を着ている僕を笑った。僕はそれでもずーっと半袖に腕を通して、いつまでも夏に居ようと思った。9月の中盤、鼻水の勢いがさすがに増しすぎて、それはむなしく終わったけど。

 

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 今年はサンダルの代わりに雪駄を手に入れてしまった。アロハシャツまで着て。これらはまた夏を延長させる。これからカンカン帽を買おうとしているもんだから、きっと僕の夏はいつまでも終わらないんだろう。そのうち

「1年って12ヶ月だろ?で、四季ってあるじゃん。じゃあさ、12÷4で"一季"は3ヶ月な訳だ。春はきっと3,4,5月だな。夏は6,7,8。で、秋は9,10,11と来て、冬は12,1,2月だ。これで1年が四季で分けられるんだな。でもさ、俺は3月はまだまだ冬だと思うんだよ。去年なんて5月まで雪が降ったんだから。3月は全然春じゃないだろ。だったらさ、春は4,5,6月なんじゃねえかな。それから考えれば、夏って7,8,9月だよな。言っちゃえば9月も夏なんだよ。うん、多分そういうことだと思うんだよなぁ。」

とか訳の分からない事を自慢気に言って、北海道の冬に借金を背負わせる形で夏を長引かせようと試みるんだろう。鼻水を我慢しながら、髪を短く切ったりして、雪駄のカカトを擦ってはジャリジャリ言わせて、無理矢理に夏を感じるように自分を騙すんだろう。9月に風邪を引けば「これは間違いなく夏風邪だ」と言って、きっといつも通り馬鹿者扱いされているはずだ。

 ライジングが終わった3日後だったか。友達が言った。

ライジングまであと362日

 僕は、毎年彼女が言っているこの言葉が世界で3番目に好きだ。 1番目も彼女が言った言葉で、僕に付けたひどいアダ名なのだが、それは僕と彼女が昔を思い出すための合言葉としてとっておきたい。あの人は本当に天才だと思う。

 もうすぐ北海道の夏が終わる。外で遊ぶ子どもの数が少しずつ減ってきた。若い女性は薄手のカーディガンなんかを羽織り初めている。わかりやすく世間で夏が終わっても、雪駄と半袖、僕の都合の良い考えという3つの便利な道具のおかげで、きっと僕の夏は人より少しだけ長いものとして、なかなか終わらないだろう。寒さともとれそうな強気な涼しさに鼻風邪を引いてもなお、夏だと言い続けようと思う。終わらないでくれないかなー。夏。