夏だから、これくらい許してくれ。

お母さんが僕に言った。

希にはもうひとつだけ名前の候補があったんだ。それは、「楽」という名前。楽しい生活を送ってほしいと願って付けようと思いました。でも、おじいちゃんやおばあちゃんから反対されて断念したんだよ。『ガックンガックンのガクだろ!』って。私は本当に良い名前だと思っていたから、すごく残念だったな。

 もしも僕が三浦 希ではなく、三浦 楽だったなら。今より生活は楽しかったのか。楽しく生きられていたのか。DQNネームなんていうのが流行ったけれど、僕はそんなものは無いと思う。親が心を込めて付けようとし、実際に付けた名前にDQNなんて。キラキラネームだなんて。光宙で「ぴかちゅう」だろうと、黄熊で「ぷう」だろうと、確かに言い過ぎ感は否めないけど、それもまた愛情のうちの一つなんじゃないかと思う。

 僕の父、ハジメさんに聞いたことがあった。「ねえ、なんで俺って"希"なの?」と。彼は普段からおちゃらけた人間を演じている部分がある。真面目なことを話す時も、不真面目そうにヘラヘラしながら話す。あの時もそうだった。

いやー、「ハジメ」の「メ」を名前の一部にしたくてなー。ほら、「希」の字には「メ」が乗っかってるだろ?それで選んだのよ。 

 上がった口角から、白い歯がチラリと見えた。ゴリラみたいなおでこのシワが、眉毛に押し上げられていっそう深くなった。「ああ、またそんなのか」と愛想笑いをしたけれど、内心すごく嬉しかった。どうせその場で考えたデタラメなんだろうけど。きっとこの人のおでこのシワはこうして生まれたのだと思うと、すごく愛らしく思えた。自分の中に、彼のおでこのシワより深い愛情みたいなものを感じた。この人の息子で本当に良かった、と心から思った。

 「楽」であれ「希」であれ、僕はこの両親に深く愛されて生まれてきたのだ。『俺、希が生まれてきた時にさ、病室で「猿より可愛いな!」って言って看護師さんに殴られたよ』なんてうそぶいて、風呂あがりみたいな顔で笑った父はきっと、僕を本当に愛しているのだと思う。俺、それマンガで読んだよ。お父さんの部屋に置いてあっただろ。タイトルは忘れちゃったけどさ。

 彼らが僕に付けた名前も、彼が僕に微笑みかけた時のおでこのシワも、お母さんから貰った強気に張ったエラも、最近亡くなったおじいちゃんがくれた高い鼻も、膿が出て嫌いだった耳のヘンテコな穴も。全部僕に対する愛が形になって表れているのだろう。背が177cmまで伸びたことに関してだけは、お父さんから『お前は拾って来た子どもなんだよ』と辛い冗談を言われたけど。

 愛というのは相当難しいものだけど、きっとこうして考えれば、キリが無いほど愛されているのだと思う。親のことが大嫌いだった反抗期は、本当に悪いことをしたと反省している。僕は愛にあふれた家族に囲まれて育った幸せな人間だと思った。お父さんお母さん、いつもありがとうございます。